相続における寄与分というのは説明だけ読むと簡単そうですが、実際にはとても複雑な内容も含むものです。ここでは寄与分制度をもう少し詳しく説明しています。
民法904条の2には「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で決めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし・・・」とあります。これが寄与分です。この条文は昭和55年の改正で作られました(なお条文番号が904条の2というのは905条ができた後になって904条の後ろに挿入された条文ということです)。
たとえば自営業をしている父親の事業に長男が大いに協力して父親の財産を増やしたが二男はそうではなかったという場合、父親が亡くなったときに残した遺産に対して長男は潜在的な持分を有していると考えられるのでそれを相続において考慮するという趣旨の制度です。昭和55年の改正より以前でも、家庭裁判所はそういう不公平を救済しようと工夫していたのを立法的に解決したものです。ただ現実的には寄与分を主張するための証拠集めが大変です。
民法904条の2の第3項には、「寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。」と書かれています。したがって、被相続人が遺言で全ての遺産を他の共同相続人などに遺贈してしまった場合には、寄与分を主張することができません。遺言によって自分の相続権を侵害された人は遺留分を主張することになります。
たとえば、被相続人が、農業、林業、漁業、製造業、小売業、その他の自営業(工務店、飲食店や医師、各種の士業も含みます)などの事業を営んでいて、その事業のために,子供が給料ももらわずに働いていた場合などが考えられます。「特別の寄与」ですから家業を手伝っていたら必ず寄与分が認められるというものではありませんし、寄与していた期間についても10年以上の長期間の場合の方が認められやすくなります。
少し古いものが多いですが寄与分に関する事例をあげてみます。
しかし、寄与分は広く認められるというわけではなく、3年間家業を手伝った程度の貢献では特別の寄与とは認められないと否定したケースもたくさんありますし、生前に受けた贈与によって既に寄与分は清算済みであるとされたケースもあります。一つ一つのケースが違うので,それぞれのケースに合わせて立証を工夫することになるでしょう。
被相続人の事業のために資金を出した場合、被相続人の事業に関する借金を代わりに返済した場合などが該当します。財産上の給付というのは金銭交付だけでなく、不動産所有権を移転したり、不動産を使用させた場合なども含まれます。不動産を使用させていた場合は賃料相当額を給付したというのが一つの考え方になります。
被相続人の事業とは関係ないことで資金を出したり代わりに借金を返済した場合は、これとは少し違うので最後にある「その他の方法」に該当するかどうかということになります。共稼ぎ夫婦で夫名義の不動産(マンション、土地、建物)を購入したときに、妻が自分の収入から得た資金を提供した場合などが考えられます。
資金を提供したという証拠、その資金が自己資金であることなどの証拠を残しておくことが大切になります。
被相続人の事業に労務を提供するだけでなく、同時に金銭も提供しているケースも多くあります。そういう場合は総合的に貢献度が判断されることになります。
被相続人の生活費を負担して扶養したことによって被相続人の遺産が減ることを防止した場合です。
ただし、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」(752条)。し、「直系血族及び兄弟姉妹はお互いに扶養をする義務がある。」(民法877条)。ので、たとえ被相続人を扶養していたとしても、それが扶助義務や扶養義務の範囲内である場合には「特別の寄与」とは認められません。しかし、相続人の一人だけが他の相続人よりもずっと多額の負担をして扶助していた様な場合には、相続人間の公平を図るために分担義務を超える範囲については「特別の寄与」を認める余地があります。
療養看護の場合は、相続人が療養看護することによって被相続人の遺産を維持した(遺産が減少することを防いだ)ことが必要です。
被相続人が療養看護を必要になる期間は長いとは限らないので比較的、短期間でも寄与分を認めたケースもあります。通常の扶養の範囲内なのか特別の寄与なのか、その他の相続人はどうだったのか、そして療養看護の実態について事実の証明をどうするかが問題となるでしょう。
財産管理型とは、被相続人の財産管理を行い、管理費用の支出を免れさせるなどして遺産の維持に寄与した場合のことです。不動産(土地建物)を賃貸し管理していた場合や修繕や維持を続けた場合、公租公課を負担していた場合などです。
法律上、寄与分を主張できるのは相続人に限られています。もともと遺産分割協議は相続人間で行われるものなので、寄与分を主張できる者は相続人に限定されるのです。
しかし、相続人の配偶者が相続人と一緒になって被相続人の事業に労務を提供することはよく見られることです。この場合の様に、その人の寄与が共同相続人の寄与と同視できる場合は、配偶者を相続人の履行補助者の様にとらえて相続人の寄与分を評価することが公平であると考えられます。この点については法律の改正がありました。相続人以外の親族が被相続人の療養看護等をと行った場合、一定の要件の下で相続人に対して金銭請求ができるようになりました。
もし、配偶者が被相続人に寄与していたときに、寄与分以外の方法で自己の権利を主張しようとすると、契約の存在や不当利得という法律構成によることになります。療養看護した場合であれば、被相続人との間に療養看護について報酬を払う合意があったとか、配偶者の寄与によって本来減るはずの財産が減らなかったから不当利得があると主張することになりますが、その立証は困難が伴います。
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弁護士 安田英二郎
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